渦電流アレイ(ECA)vs 超音波(UT)熱交換器チューブ検査の選択基準:材質・欠陥種・検査速度の比較2025

熱交換器は石油精製・化学プラントの心臓部であり、定修(ターンアラウンド)時のチューブ検査は安全運転継続の要です。代表的な二手法——渦電流アレイ(ECA: Eddy Current Array)と超音波探傷(UT、特にIRIS)——はそれぞれ長所と限界を持ちます。選択を誤ると、欠陥見逃しや不必要なコスト増につながります。本記事では、材質・欠陥種・検査速度・コストの観点から、現場技術者が即使える選択基準を体系的に解説します。

熱交換器チューブ検査とは——何を、なぜ調べるか

シェル&チューブ型熱交換器では、プロセス流体と冷却水(または加熱流体)が薄肉チューブを介して熱交換します。チューブ壁厚は通常1.5〜3.5mm程度と薄く、腐食・侵食・孔食・クラックが発生しやすい部位です。

主な欠陥タイプとしては、冷却水側の電解腐食や微生物腐食による外面孔食(OD pitting)、プロセス流体による内面均一減肉(ID thinning)、黄銅・オーステナイト系ステンレスで問題となる応力腐食割れ(SCC)、バッフル接触部のフレッティング摩耗などがあります。これらを効率的・正確に検出するため、検査手法の選択は極めて重要です。

ECA(渦電流アレイ)の原理と強み

渦電流探傷(ECT)は交流磁場によって導電体内に誘導電流を発生させ、その乱れから欠陥を検出する手法です。ECA(渦電流アレイ)はこれをアレイ化(多コイル同時測定)し、1回の走査でより広い面積を高速・高解像度でカバーします。Evident Scientific(旧Olympus)によると、ECAはきず情報を画像化できるため欠陥寸法の把握にも優れています。

ECAの主な特長

  • 検査速度:プローブをチューブ内で最大2m/秒で引き抜き可能。1シフト(8時間)で数百〜数千本の検査が実現可能
  • 水(カプラント)不要:表面直接接触なしで検査できるため、準備・後処理の時間が大幅に削減される
  • リアルタイム結果:データ取得と同時に欠陥信号が表示され、即時判断が可能
  • C-scan画像化:欠陥の位置・形状を2次元マップで可視化できる
  • 非強磁性チューブへの適用性が高い:銅合金、ステンレス(SUS304/316)、チタン、インコネル等に有効

ECAの限界

  • 強磁性材料(炭素鋼、フェライト系ステンレス)は磁気ノイズが大きく適用困難
  • 壁の深部(中間層)の欠陥定量精度はIRISより劣る場合がある
  • チューブ内面のスケールや酸化被膜が信号に影響することがある

UT(超音波探傷)・IRISの原理と強み

熱交換器チューブに特化した超音波手法としてIRIS(Internal Rotary Inspection System:内部回転式探傷システム)が広く使われています。IRISは回転する超音波トランスデューサーを水で満たしたチューブ内に挿入し、360°全周の肉厚プロファイルを精密に取得します。日鉄テクノロジーをはじめ多くの検査機関が石油化学設備での実績を持ちます。

IRISの主な特長

  • 高精度な肉厚測定:壁厚±0.1mm精度で定量測定が可能。RBI(リスクベース検査)の根拠データとして価値が高い
  • 材質非依存性:炭素鋼・ステンレス・銅合金・チタンなど、ほぼすべての材質に適用可能
  • OD・ID両面の欠陥検出:外面腐食と内面腐食を区別して検出・定量できる
  • C-scan画像:チューブ全周の断面プロファイルを画像化し、記録として残せる
  • 強磁性材への適用:ECAが苦手な炭素鋼チューブに有効

IRISの限界

  • 検査速度が遅い:通常2〜5分/本。1シフトで検査できる本数は数十〜百本程度にとどまる
  • 水(カプラント)が必須:チューブ内を水で充填する必要があり、準備・排水に時間がかかる
  • チューブ清浄度が重要:スケール・スラッジが残っていると超音波が散乱し精度が低下する
  • コストが高い:速度が遅いため、人件費・工期コストがECAより大幅に増加しやすい

材質別の検査手法選択ガイド

チューブ材質は検査手法の選択において最も根本的な判断基準となります。特に強磁性か非強磁性かは決定的な分岐点です。以下に代表的な材質ごとの推奨手法をまとめます。

チューブ材質推奨手法理由
銅合金(真鍮、キュプロニッケル)ECA非強磁性、高速検査で大量処理が効率的
ステンレス SUS304/316ECA非強磁性、SCCのき裂検出にも有効
チタンECA(補完でIRIS)非強磁性だが酸化皮膜で信号変動あり
炭素鋼IRIS強磁性のためECA適用困難。IRISが標準
低合金鋼IRIS同上
フェライト系ステンレスIRIS強磁性のためECA不向き
インコネル・ハステロイECA非強磁性、高温環境での適用実績あり

欠陥種別の検出能力と検査速度・コストの比較

比較項目ECAIRIS(UT)
外面孔食(OD pitting)◎ 高感度○ 肉厚変化として検出
内面均一減肉(ID thinning)○ 検出可◎ 高精度定量
表面き裂・SCC◎ 感度良好△ 方向依存で見落としリスク
バッフル接触部フレッティング
壁中間の内部欠陥△ 深い位置は感度低下◎ 断面全体を測定
強磁性材への適用✕ 不可◎ 対応可能
検査速度(500本熱交換器)◎ 1〜2シフト△ 4〜6シフト
水(カプラント)◎ 不要△ 必要
コスト(相対比較)◎ 低〜中△ 中〜高(2〜4倍)
肉厚定量精度○ 概算◎ ±0.1mm精度

◎:得意 ○:標準的に対応 △:苦手または限界あり ✕:適用困難

現場でどちらを選ぶか——判断フローと組み合わせ運用

実際の定修計画では、以下の判断フローが実務に役立ちます:

  1. 材質が強磁性(炭素鋼・フェライト系SUS)か?→ Yes → IRIS一択
  2. 大量のチューブを工期内に処理する必要があるか?→ Yes → ECA優先
  3. 肉厚の精密な定量値が必要か(RBI・寿命評価)?→ Yes → IRIS(またはECA後に補完IRIS)
  4. き裂・SCC検出が主目的か?→ ECAの方が感度良好
  5. 予算制約が厳しいか?→ ECAが多くの場合低コスト

組み合わせ運用(スクリーニング+精密検査)も実務的に有効です。まずECAで全数スクリーニング(高速・低コスト)を行い、疑義のある本数のみIRISで精密測定するアプローチにより、精度とコストのバランスを最大化できます。IRISのみで全数検査するよりも工期を大幅に短縮しながら、重要欠陥を見逃さない体制が組めます。

まとめ

ECAとIRISはどちらが「優れている」ということではなく、それぞれ得意領域が異なる補完的な技術です。材質(強磁性か否か)、欠陥タイプ(き裂か減肉か)、工期制約、RBIへの活用目的など、現場の条件に合わせた選択が求められます。

石油化学プラントの定修において、検査計画立案の段階から手法選定を意識することで、欠陥見逃しリスクを下げながら工期・コストを最適化することが可能です。近年はECAとIRIS(UT)の両方を1台で扱えるマルチテクノロジープローブシステムも登場しており、今後の現場適用拡大が期待されています。

参考資料・出典

  • Evident Scientific (Olympus IMS)「渦流アレイチュートリアル」https://ims.evidentscientific.com/ja/learn/ndt-tutorials/eca-tutorial
  • Evident Scientific「熱交換器チューブを検査する3つの方法」https://ims.evidentscientific.com/ja/insights/a-faster-way-to-inspect-heat-exchanger-tubes
  • Eddyfi Technologies「Tube Inspection - Eddy Current Testing」https://www.eddyfi.com/en/application/tube-inspection
  • IRIS NDT「Eddy Current Testing of Heat Exchanger Tubes」https://www.irisndt.com/services/advanced-ndt-services/tube-inspection-technologies/eddy-current-testing-for-tubes/
  • 日鉄テクノロジー「熱交換チューブの内厚測定(IRIS)」https://www.nstec.nipponsteel.com/technology/measure-inspection/ndi/ndi_07.html
  • 非破壊検査株式会社「渦流アレイ探傷システム(ECA)」https://www.hihakaikensa.co.jp/technologies/eca.html
  • MDPI Sensors「Non-Destructive Inspection of High Temperature Piping Combining Ultrasound and Eddy Current Testing」https://www.mdpi.com/1424-8220/23/6/3348

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です