PAUTが変えるプラント検査——TFM/FMCとオンストリーム腐食マッピングの最前線【2026年版】

石油・化学プラントの設備劣化を早期に把握し、重大事故を未然に防ぐ——それが非破壊検査(NDT)の使命だ。近年、その中核技術として急速に普及が進んでいるのがフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT: Phased Array Ultrasonic Testing)だ。従来の手動UTを大きく凌駕する検出能力と検査速度を武器に、2025〜2026年の国内外プラントで広く採用が進みつつある。本記事では、PAUTの最新動向と、石油精製・石油化学プラントへの実践的な適用方法を解説する。

PAUTとは何か——従来UTとの決定的な違い

従来の超音波探傷試験(UT)は、単一の振動子(素子)から超音波ビームを発信し、反射波を解析して欠陥を検出する。これに対しPAUTは複数の圧電素子を配列したアレイ探触子を使用し、各素子の発信タイミングを電子的に制御することで、ビームの角度・焦点深度・走査パターンを自在に変えられる。

この特性により、PAUTは一度のスキャンで広範囲をカバーし、複数角度からの情報をリアルタイムに取得できる。検査速度は従来UTの数倍〜10倍に達することもあり、プラントの定期修理(定修)における作業時間短縮に直結する。

最新技術:TFM/FMCで画像品質が飛躍的に向上

PAUTのさらなる進化として、2024〜2025年にかけて業界で急速に注目を集めているのがTFM(トータルフォーカシングメソッド)FMC(フルマトリクスキャプチャ)だ。

FMCとは、アレイ探触子の全素子ペア間でAスキャンデータをすべて取得するデータ収集方式だ。この膨大なデータを後処理でフォーカス演算するのがTFMであり、あらゆる深さ・角度に焦点を合わせた高解像度の断面画像を生成できる。従来のPAUTが「ある角度に絞った探傷」だとすれば、TFM/FMCは「全方向同時フォーカス」ともいえる革新的な技術だ。

石油精製プラントの配管溶接部や圧力容器の胴板溶接部など、複雑な形状・材質を持つ箇所での欠陥検出能力が大幅に向上している。特にアウステナイト系ステンレス鋼溶接部クラッドバッド鋼のような異種材溶接部では、TFMが従来技術では困難だった内部欠陥の特性評価を可能にしている。

オンストリーム腐食マッピング——設備稼働中の検査を実現

石油・化学プラントにとって、設備を停止せずに検査できる「オンストリームNDT」は究極のコスト削減策だ。高温環境下でのPAUTによる腐食マッピングは近年急速に実用化が進んでいる。

Ionix社が2026年3月に発表したHotSense™ HeatMaster技術では、55℃〜250℃以上の高温配管に対して稼働中のままPAUT腐食マッピングを実施できる。従来、高温部の検査は冷却停止後に行うのが常識だったが、能動冷却ウェッジ技術の導入により、石油精製プラントの蒸留塔回りや反応炉配管の検査を稼働中に実施できるようになった。

腐食マッピングの適用対象は幅広い。一般腐食・エロージョン、微生物誘起腐食(MIC)、水素誘起割れ(HIC)、高温硫化腐食など、石油精製プロセス特有の腐食機構すべてに対応可能だ。

市場規模の拡大——2030年に向けた成長トレンド

石油・ガス産業向けNDT・検査市場の規模は、2025年時点で40億6,000万ドル(約6,000億円)と試算されており、2030年には62億ドル(約9,000億円)に達すると予測されている(年平均成長率8.8%)。

この成長を牽引する主な要因は以下の3点だ。

  • 老朽化インフラ問題:1960〜70年代に建設された石油精製プラントの多くが更新期を迎え、精密な状態評価ニーズが増大している
  • AI・IoTとの融合:ドローン検査、IoT対応センサー、AI画像解析を組み合わせたデジタル検査エコシステムが普及しつつある
  • 規制強化と安全要求:API 510(圧力容器検査規格)やAPI 570(配管検査規格)の改訂に伴い、より精密な検査手法の採用が求められている

国内プラントへの適用課題と今後の展望

日本国内でもPAUTの採用は広がりつつあるが、いくつかの課題も残る。最大の障壁はJIS規格の未整備だ。PAUTはISOやASTM規格では実績があるものの、JISには対応する規格が存在しないため、国内の定期自主検査や保安検査への正式採用にあたっては個別の承認手続きが必要となるケースが多い。

一方、熱交換器管端溶接部の全数検査や、定修時の圧力容器胴板肉厚測定など、従来手法では工数がかかりすぎていた検査工程での実績が積み上がってきており、規格化に向けた議論も業界内で始まっている。

今後の展望として、TFM/FMCの標準化、AIを用いた自動欠陥評価(ADE: Automated Defect Evaluation)との連携、さらにはドローン搭載型PAUTによる高所・危険箇所の遠隔検査が実用段階に入ることが期待されている。

まとめ

フェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)は、石油・化学プラントのNDTを根本から変えつつある技術だ。TFM/FMCによる高解像度イメージング、オンストリーム腐食マッピング、AIとの融合——これらの技術革新は、プラントの安全性向上と定修コストの最適化を同時に実現する可能性を持つ。JIS規格の整備が進み、適用事例がさらに積み上がれば、PAUTは近い将来、国内石油精製・石油化学プラントの標準的な検査手法として確固たる地位を占めるだろう。現場エンジニアとしては、技術動向を常に追いながら、自らの検査フローへの導入可能性を検討していくことが求められる。

参考資料・出典

  • Olympus IMS「フェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)」 https://ims.evidentscientific.com/ja/learn/phased-array
  • Evident Scientific「TFMの使用によるフェーズドアレイ超音波イメージングの向上」 https://ims.evidentscientific.com/ja/applications/using-the-total-focusing-method-to-improve-phased-array-ultrasonic-imaging
  • Ionix Advanced Technologies「APPLICATION NOTE: On-Stream Ultrasonic Phased-Array Corrosion Mapping」 https://ionixadvancedtechnologies.co.uk/2026/03/11/application-note-phased-array-corrosion-mapping/
  • OnestopNDT「What Ultrasonic Testing looks like in 2025」 https://www.onestopndt.com/ndt-articles/ultrasonic-testing-advancements
  • MarketsandMarkets「Oil and Gas NDT and Inspection Market Report 2025」 https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/oil-gas-ndt-inspection-market-227956296.html

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