AI×RBI(リスクベース検査)で検査計画を自動最適化——データ駆動型プラント保全の最新動向【2026年版】

前回は「AIチャットボット×ナレッジ管理」で検査現場の知識伝承の未来を論じた。今回はその延長として、リスクベース検査(RBI:Risk-Based Inspection)とAI・機械学習の融合に焦点を当てる。国内のエチレン生産設備の大半が稼働40年超えとなる2025年以降、限られた人材と予算で膨大な設備を健全に維持するには、「どこを、いつ、どれだけ」検査するかをデータから導き出すアプローチが不可欠だ。AI×RBIは、このデータ駆動型保全の中核技術として急速に実用化が進んでいる。

RBIとは何か:API 580/581の基本

RBIは、圧力容器や配管の損傷メカニズム(腐食・応力腐食割れ・疲労・クリープ等)を定量評価し、リスク=発生確率 × 結果の重大性に基づいて検査の優先度・手法・頻度を最適化する手法である。API RP 580(手法論)とAPI RP 581(定量評価手順)が世界標準として規定されている(出典①)。

従来のRBIは、損傷機構判定・腐食速度推定・検査効果評価を専門エンジニアが手作業で行っていた。この「人手依存」がRBI導入を遅らせる最大のボトルネックだった。

AIがRBIの何を変えるか

  • データ収集の自動化:過去の設計図面・仕様書・検査記録から必要情報を自動抽出・正規化。2026年時点で、海外ベンダーはRBIプロジェクトのデータ収集時間を大幅に短縮する自動抽出技術を実用化(出典②)
  • 腐食速度の予測精度向上:運転条件(温度・圧力・流体組成)と過去の肉厚測定データから、機械学習モデルが将来の腐食速度を推定。物理モデルと併用して予測精度を高める(出典③)
  • 損傷機構の自動判定:若手エンジニアにとって難易度の高い「どの損傷機構が卓越するか」の判断をAIが支援。AIの判定結果を学習材料にすることで、教育効果も得られる(出典④)
  • 動的RBI(Dynamic RBI):運転データやオンラインモニタリング(AE・DFOS等)の結果をリアルタイムに取り込み、リスクランクを常時更新。静的な年次再評価から「常時評価」へとパラダイムシフト

海外の実装事例と研究動向

2021〜2025年の5年間で、リスクベース資産健全性管理(Risk-based Asset Integrity Management)に関する査読論文は61件以上発表され、2024年単年では15件と過去最多を記録している(出典⑤)。研究トピックの中心は以下の通り。

  • ニューラルネットワーク・ランダムフォレストによる腐食速度予測モデル
  • ベイズ推定を用いた不確実性評価
  • デジタルツイン連携による確率的リスク評価
  • 自然言語処理(NLP)を活用した過去検査報告書の分析

インドのMRPL製油所では、重要ユニットへのRBI実装により検査コスト削減と安全性向上を同時達成した事例が報告されている(出典⑥)。中東・欧州の大手製油所も、AIベースのRBIプラットフォーム導入を加速している。

国内プラントへの展開と課題

経済産業省「スマート保安」の枠組みのなかで、AIによる損傷機構判定やRBM(リスクベースメンテナンス)導入が後押しされている。国内ではIHIなどがRBI/RBMサービスを提供し、大手エンジニアリング会社と製油所・化学プラントの協業が進む(出典⑦)。一方で、実装には以下の課題が残る。

  • データ品質:過去の検査記録が紙ベース・Excelベースで散在し、構造化データとしての整備が不十分。AI学習の前提条件が揃っていないケースが多い
  • 規制整合:日本の高圧ガス保安法・消防法の枠組みとAPI準拠RBIの差異を、当局との事前協議で埋める必要がある
  • 専門家の不足:RBIを運用できる損傷機構の知見を持つエンジニアが不足。AIが支援する側の人材教育が急務
  • 組織文化:「毎回同じ箇所を同じ頻度で検査する」という定期検査文化からの脱却に経営層のコミットが必要

現場検査員に求められる変化

AI×RBIは現場検査員の仕事を奪うのではなく、「AIが示した優先度の高い箇所を、より深く・確実に検査する」方向へ業務を変える。VTやUTなどのフィールド技能はむしろ重要性を増し、AIが出す予測の検証役として検査員の経験知が活きる。検査データの品質・粒度・デジタル化の徹底が、AIに信頼される検査員の条件となる。

まとめ

AI×RBIはデータ駆動型プラント保全の中核技術として、2025〜2026年に実装フェーズへ本格移行した。データ収集・腐食速度予測・損傷機構判定の各領域で機械学習が成果を上げ、動的RBIによる常時評価も実用化が進む。当社ではVT・UTの現場検査データをAI活用可能な形で整備する支援も行っている。データの質を高め、AIと現場検査が相互補完する新しい保全体制の構築にご関心があれば、お気軽にご相談ください。

参考資料・出典

  • ① American Petroleum Institute「API RP 580/581 Risk-Based Inspection」https://www.api.org/products-and-services/standards
  • ② iFluids Engineering「Risk-Based Inspection (RBI) Services — API 580, API 581 Compliance」https://ifluids.com/risk-based-inspection-rbi-services-api-580-and-api-581-compliance/
  • ③ Inspenet「Corrosion control in refineries with predictive models」https://inspenet.com/en/articles/corrosion-control-using-predictive-models/
  • ④ British Stainless Steel Association「Application of AI in predicting corrosion rates for refinery and petrochemical plants」https://bssa.org.uk/application-of-artificial-intelligence-in-predicting-corrosion-rates-for-selective-corrosion-groups-in-refinery-and-petrochemical-plants/
  • ⑤ ScienceDirect「Risk-based asset integrity management in the oil and gas industry: systematic review」(2025年)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590123025033420
  • ⑥ iFluids「Risk-Based Inspection Implementation at MRPL Refinery」https://ifluids.com/casestudy/risk-based-inspection-implementation-for-critical-refinery-units-at-mrpl/
  • ⑦ IHI「RBI/RBMサービス」https://www.ihi.co.jp/rbi-rbm/
  • ⑧ 経済産業省「プラントにおける先進的AI事例集」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/koatsu_gas/pdf/017_s04_00.pdf

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